大手ビールメーカーやハードウェアスタートアップの工業デザインを数多く手掛け、2020年 のグッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)を始め数々のデザインに関わる賞を受賞するなど躍進中の346社。その346社取締役菅野秀さんにインダストリアルデザイナーの仕事と求められる人材についてインタビューさせていただきました。
菅野 秀|株式会社346取締役
株式会社RICOH、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346創業。過去には電動車いすをはじめとする医療・福祉用具開発や製造・SCMのDX改革業務を経験。桑沢デザイン研究所卒/東京都立大学 工学修士(航空宇宙)
インダストリアルデザイナーの仕事とは?
ー今日はインダストリアルデザイナーについて色々と教えていただけたらと思うのですが、工業デザインやインダストリアルデザインとは具体的にどういったことをするのでしょうか?
工業デザインとインダストリアルデザインというのは同じ意味なのですが、僕たちが工業デザインについて説明する時は、まずはじめに次の言葉を紹介しています。
”工業的な生産手段で大量に生産される工業製品にビジョン、コンセプトを注入して人の機能によく適合して生活に役立つ美しい形にする”
これをもう少し噛み砕いて説明しますと、大前提として工業デザイナーが関わるデザインは、モノ作りの中でも「大量生産して、多くの人に届ける」ことを意図した製品に対するデザインです。
ですから、職人さんが一品一様で作っている椅子やオブジェ、あとはいわゆる工芸や美術作品のような領域は同じモノ作りではありますが、工業的な生産手段で大量に生産しているわけではありませんから、私達は工業デザインの仕事とは別の定義をしています。
このような大前提がある中で、工業製品に「作っている人の思いやコンセプト」「何を実現したいのか」という”ビジョン、コンセプトを注入”する方法を考えます。
その手段が、その製品を作る際に「どういう材質を使うか」「どういう見た目なのか」「それを見た時にどういう風に感じるのか」などを考えることです。
例えば、片手の指は最大5本しかありませんし、その指も片側にしか曲げられません。人間には元々持っている行動能力や制約があるのです。
そういった人の機能に良く適合させ生活に役立つ美しい形にすることが、いわゆる工業デザインです。
ー工業デザイナーになるにはどうすればいいんでしょうか?やはり狭き門なのでしょうか?
工業デザイナーの人口自体は、他のウェブ系のデザイナーやグラフィックデザイナーと比べると、かなり少ないと思います。
工業デザイナーと呼ばれる仕事をしているのは、概ね大手企業の中にいる人ですし、それも1製品1デザイナーではなく、色々な製品ラインナップがあってデザインの仕事を一挙に担っているパターンが多いですね。
そうすると、仮に新入社員が100人入ったとしても工業デザイナーとして配属されるのは1人か2人いるかいないかくらいではないかと思います。
それでも工業デザイナーと呼ばれる人の多くは、企業のインハウスデザイナーですので、製造業の中で占める人数がかなり少ないですし、デザイナーという軸で見た時も少ないです。
そう考えると、かなり狭き門だとは思います。
ーどのようにして工業デザイナーを目指したらいいのでしょうか?
工業デザイン専門の事務所にはいる手段もあります。
しかし、デザイン専門の事務所だと、深くメーカーのモノ作りに入り込めないところがあります。特にエレクトロ二クスのものづくりを理解するには、ちょっともったいない気もします。
一方、企業のインハウスや設計部門を持っているデザイン事務所で仕事をすると関わる人も増えますし、裏で何が起こっているのかに触れられます。
学校の話をすると、以前は美大の工業デザインコースからインダストリアルデザイナーになる人が多かったのですが、
最近のトレンドですと、僕が行っていた東京都立大学とか、千葉大学、慶應義塾大学など総合大学の工学部で工業デザインを学べる大学があったりします。
今は、そういう大学から工業デザイナーになる人も結構増えています。
346社菅野取締役がインダストリアルデザインに関わるようになった経緯とは?
ー菅野さんはどういった経緯でインダストリアルデザインに関わるようになったのでしょうか?
まず僕と代表の三枝は桑沢デザイン研究所という日本で一番歴史のあるデザイン学校出身で、そこの同級生なんです。
三枝は、デザイン事務所での仕事を経て、沖電気のデザインセンターでATMやプリンターのデザイン業をしていました。そして、その後にこの会社を創業しています。
僕は、大学院で工学系の勉強をしながら、ダブルスクールで桑沢デザイン研究所に通い、その後、リコーというプリンタやカメラを作っている会社のエンジニアとして入社。次に立上げ当初から関わっていたWHILLという電動車いすを作っている会社の設計・デザイン部門、それからアクセンチュアで業務コンサルティングの仕事をしました。
アクセンチュアを辞めた後、兼ねてからデザイン関連の活動を一緒にしていた三枝と346を共同創業したという経緯です。
ーメーカーから外資コンサルにいって工業デザインファームというのは結構珍しいキャリアに感じますが、菅野さんの経歴をもう少し詳しく聞いてもよろしいでしょうか?
学生時代に遡るのですが、工学部で勉強しながら専門学校に行って工業デザインを学びました。
もっと遡ると、そもそも美大に行きたかったのですが、いくつか美大の説明会を受けてみると「全然就職できないですよ」とか「めっちゃお金かかりますよ」みたいな、そういう事ばっかり言われまして、「覚悟を持ってこい」みたいな(笑)
でも、その時は「そんな覚悟ないな」と思いまして、結局、航空宇宙系の学部がある工学部に行ってゴリゴリに理系の勉強をしたというわけです。
でも、大学3年の時、やっぱり「美術系の勉強がしたいな」と思いはじめて、それで「工学部の知識も活かしながら美術ができるような仕事はないかな?」と考えた時に工業デザインに興味を持ったということです。
ただ、「工業デザインと設計と両方をやることが出来る」というような職は探してもないんです。
それで、先ほども少し触れましたが、リコーに入って、まずはエンジニアとして働きました。その後、領域横断的に両方の仕事をやろうとした時に、ベンチャーだとそういった働き方もできるのもあって、もともと付き合いがあったウィルという会社で働くことになりました。
でも、そのようにリコーで大手企業のモノ作りをやって、WHILLというベンチャーでモノ作りを経験したんですが、働いている中で、別の形でも製造業に関わる仕事がしたい気持ちが生じたんです。
兼ねてから製造業ということは前提として置いていたのですが、「別の形で製造業に関わる方法はないかな?」と考えた時に、世の中の潮流的にはモノ作りしている人よりもIT系やコンサルの人たちの方がトレンドと認識されている気づきました。
だとしたら、そっち側に自分自身の専門性をいっかい寄せて、また製造業に戻ってきたら、「もっといいモノ作りの仕事が出来るのではないか?」というイメージが湧きまして、アクセンチュアで業務コンサルやSIの仕事をはじめたという事です。
アクセンチュアの時の経験が今にも繋がる部分がありまして、フレームワークやアセット(知的資源)に対する考え方などに触れられたのは、346社をやっていく上で役に立っています。
そういう経緯を経て、元々デザイン学校で知り合いで、兼ねてから一緒に活動することが多かった三枝と一緒に会社をやろうとなったわけです。
インダストリアルデザイナーに向いている人とは?
ーこの仕事で重要視されるスキルやこういう人が向いているなどあれば教えて頂けますか?
そうですね。体の動きや脳など、人間のことはよく知っておいた方がいいと思います。
分野で言うと、心理学、行動経済学、人間工学などですが、その辺の知識は持っていたら役立つと思います。
あとは、やっぱりスケッチ能力で、絵を描く能力は必要だろうと思います。
かといって、めちゃくちゃ絵が上手くないとできない仕事かというとそういうわけでもないですが、立体系の絵などをしっかり描けると有利だと思います。
あとは、本当に物を作る能力、形をすぐに作れる能力です。
社内では発泡スチロールや紙、電気工作で試作をすることが多いのですが、そういう風に、モノを自分の手を動かしてつくることに抵抗のない人は向いていると思います。
ー346社でも、新卒の方とかインターンの方を採用していると思うんですが、どういうところを見ているのでしょうか?
この仕事は好きじゃないとできない仕事ですから、まずそこを見ます。
あと、346社という会社で働くことに、どれだけ自分なりの理由付けが出来ているかも見ます。
ー今現在どういった職種の人を募集していますか?
346社のホームページに募集内容を載せていますが、ほとんどの職種で探しています。
工業デザイナーとして、製品とデザインの両方に携われることが346社の強みであり特徴です。
そういった事に、強い興味がある人は、是非とも連絡して下さい!
ー本日は、お忙しいところ、ありがとうございました!
こちらこそ、有難うございました。
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